2006年 03月 23日
法学概論:試験講評 |
問1:規制緩和について
規制緩和(または強化)の得失について考える問題。講義ではタクシー業界の規制緩和を取り上げたが、試験で取り上げるテーマは自由に選らんでよいので、大まかな対立図式さえ理解できていれば、それなりの答案になったと思われる。
ただし、問題文でふれているように、規制緩和が進む分野(タクシー業界)と、規制が強化される分野(タバコ)があり、「このことに注意しながら」という条件を付けているのだから、本来は、一口に規制といってもその性格は様々であることを指摘しておくべきである。このヒントをしっかり理解できた人は高得点。逆に、ここを十分に説明せず、単に「規制には消極規制と積極規制がある」の1行ですませている答案は伸び悩むことになった。
なお、タバコ規制の強化を取り上げた人の中で、「規制の強化は健康を促進する効果がある→強化しすぎると喫煙者がかわいそうである→ほどほどにしよう」という議論をする人が何人かいた。また、自治体が行う青少年の深夜徘徊規制を取り上げ「健全育成は重要だ→しかし深夜徘徊=不良少年とは言えない→家庭のしつけの問題だ」という議論も見られた。共に、規制が社会に与える影響に言及していない点で大幅減点した。後者の例について「実効性がはっきりしない条例を制定することの意義について検討した答案」と好意的に考えたとしても、規制の問題よりも教育問題(親が悪い、教師が悪い、地域共同体が、云々)に比重があると思われる答案はやはり大幅減点とした。
問2:尊厳死と自己決定権について
2005年3月に注目を集めた、テリー・シャイヴォ事件を素材として作成した問題。論点は自己決定権であることが見え見えである上に、小問形式になっているので、4つの小問に順番に解答していけば、誰でも答案が書ける。だから評価のポイントは、隠れた論点にたくさん言及しているか、作文として完成度が高いか、である。
Millが主張するように、他者に迷惑をかけない行為について自分で決定、行動することができる、というのが自己決定権の要諦である。一方、尊厳死や安楽死は、当然、刑法上の問題になる。これらのことを問題に当てはめると、
1:植物状態のAは意思表示をすることができない
2:15年前の意思表示が現在でも有効といえるか
3:仮にAの意思が明確であるとしても、Aは決定内容を自分で行うことができない
4:他者の手を借りる場合、刑法202条との関係で問題がある
5:自ら望む死の手助けを行うことは、広い意味で医療行為と言えるのではないか
6:やり直しのきかない「死の選択」はそもそも自己決定の対象となるか
7:死の意思表示は、一時的なものでなく真摯なものであるかどうか
などの問題が重要であるとわかる。これらのことに目配りしながら作文として良くできているものに、高得点を与え、「自己決定なんだから死なせてあげる→生きている限り死なせてはダメだ→難しい問題だ」でまとめている場合は大幅減点した。
法学概論に限ったことではないが、この種の問題では、「本人がやりたいなら(死にたいなら)やらせてあげれば?」という考え方は大雑把すぎるし、無関心と紙一重であることに注意する必要がある。具体的な場面でどのようなことが問題になるか、十分に想像力を働かせることが重要であり、それが、講義中に繰り返した「バランス良く勉強すること」につながっていくのである。
なお、テリー・シャイヴォ事件については、ジュリスト1282号の判例紹介、外国の立法225号の特集を参照のこと。また、同様の講評をメインホームページに掲載予定である。
規制緩和(または強化)の得失について考える問題。講義ではタクシー業界の規制緩和を取り上げたが、試験で取り上げるテーマは自由に選らんでよいので、大まかな対立図式さえ理解できていれば、それなりの答案になったと思われる。
ただし、問題文でふれているように、規制緩和が進む分野(タクシー業界)と、規制が強化される分野(タバコ)があり、「このことに注意しながら」という条件を付けているのだから、本来は、一口に規制といってもその性格は様々であることを指摘しておくべきである。このヒントをしっかり理解できた人は高得点。逆に、ここを十分に説明せず、単に「規制には消極規制と積極規制がある」の1行ですませている答案は伸び悩むことになった。
なお、タバコ規制の強化を取り上げた人の中で、「規制の強化は健康を促進する効果がある→強化しすぎると喫煙者がかわいそうである→ほどほどにしよう」という議論をする人が何人かいた。また、自治体が行う青少年の深夜徘徊規制を取り上げ「健全育成は重要だ→しかし深夜徘徊=不良少年とは言えない→家庭のしつけの問題だ」という議論も見られた。共に、規制が社会に与える影響に言及していない点で大幅減点した。後者の例について「実効性がはっきりしない条例を制定することの意義について検討した答案」と好意的に考えたとしても、規制の問題よりも教育問題(親が悪い、教師が悪い、地域共同体が、云々)に比重があると思われる答案はやはり大幅減点とした。
問2:尊厳死と自己決定権について
2005年3月に注目を集めた、テリー・シャイヴォ事件を素材として作成した問題。論点は自己決定権であることが見え見えである上に、小問形式になっているので、4つの小問に順番に解答していけば、誰でも答案が書ける。だから評価のポイントは、隠れた論点にたくさん言及しているか、作文として完成度が高いか、である。
Millが主張するように、他者に迷惑をかけない行為について自分で決定、行動することができる、というのが自己決定権の要諦である。一方、尊厳死や安楽死は、当然、刑法上の問題になる。これらのことを問題に当てはめると、
1:植物状態のAは意思表示をすることができない
2:15年前の意思表示が現在でも有効といえるか
3:仮にAの意思が明確であるとしても、Aは決定内容を自分で行うことができない
4:他者の手を借りる場合、刑法202条との関係で問題がある
5:自ら望む死の手助けを行うことは、広い意味で医療行為と言えるのではないか
6:やり直しのきかない「死の選択」はそもそも自己決定の対象となるか
7:死の意思表示は、一時的なものでなく真摯なものであるかどうか
などの問題が重要であるとわかる。これらのことに目配りしながら作文として良くできているものに、高得点を与え、「自己決定なんだから死なせてあげる→生きている限り死なせてはダメだ→難しい問題だ」でまとめている場合は大幅減点した。
法学概論に限ったことではないが、この種の問題では、「本人がやりたいなら(死にたいなら)やらせてあげれば?」という考え方は大雑把すぎるし、無関心と紙一重であることに注意する必要がある。具体的な場面でどのようなことが問題になるか、十分に想像力を働かせることが重要であり、それが、講義中に繰り返した「バランス良く勉強すること」につながっていくのである。
なお、テリー・シャイヴォ事件については、ジュリスト1282号の判例紹介、外国の立法225号の特集を参照のこと。また、同様の講評をメインホームページに掲載予定である。
by eastriver46
| 2006-03-23 21:37
| 英米法関係